逃亡見聞録_d

南から逃げてきた

ハレルヤ、

歪み

ある程度年齢を重ねた人間は皆、どこかで挫けてしまったのだろうと思う。

先々週、上司のハゲと二人で飲んだ。道中、目につくもの全てにコメントをつけるハゲを尻目に店を探し、なんとか入れた店はチェーン店だったが、おかまいなしに彼は上機嫌だった。

最近、どうもハゲは様子がおかしい。会社への呪詛しか吐かなくなり、反比例して自分への当たりは随分弱くなった。時折、労いの言葉すらかける。何かの前触れかと戦々恐々としていた矢先の飲みの誘いで、タダ酒への欲望よりも得体の知れない恐怖が勝っていた自分は体調不良を理由に断ろうと思ったのだが、なんとなく寂しげに漂う彼の髪を見ていると、付き合ってみようかと好奇心が心の猫をぶち殺してしまったのである。

饒舌に幼少期を語るハゲの言葉を左耳から右耳に流していると、タバコが切れてしまった。失礼を承知で、というより自分が吸っていたのはハゲのタバコだったので。買いに行こうと断りを入れると、1000円札をくれた。髪は薄いが気前は良い。

日本人の中年男性は世界一孤独だそうな。理由は仕事や趣味、なんらかの要素で共有できるものがなければ、口を開かないかららしい。ご多分に漏れず、ハゲもそうだろうが、こやつは仕事の話すらしない。もしかすると、世界一孤独な日本の中年の中でも、トップクラスに孤独な部類なのかもしれない。心中、マザーテレサがハレルヤしてくる。

タバコを二箱買って戻ると、ハゲはカウンターで爆睡していた。これはひどい。notハレルヤ。そのまま店を出て行きたかったが、こいつとはまだ半年以上、席を並べて仕事をしなければならないのである。