逃亡見聞録_d

南から逃げてきた

感動を安売りするな

「感動した。」

有名な作品に相対した時、思ってもない感想を知人に伝えてしまう。金のない時分。恋人とのデート場所に何度か美術館を指定していた時期がある。それでまぁ適当に外国人画家の油絵とかを鑑賞したのだが、全くもって良さが分からなかった。正直、本命はその後、恋人の自宅に転がり込む事なのだから、全く集中できていなかったのだから当然だし、そもそも、私自身、絵画に対する審美眼を一切持ち合わせていないというのも理由としては明白だろう。美術館や芸術館、博物館などは常設展なら無料から1000円ちょいで観覧できる。別に興味がなくたって、解説をいちいち読んでいけば正味2〜3時間は潰せる。私にとって美術館とはそれだけの場所である。

しかし、自身の関心事はどうだ?例えば、アニメ好きならクラナド、読書家なら夏目漱石、酒の通なら獺祭、風俗狂いならAV女優在籍ソープ。最後のはちょっと違うかもしれないし、酒に関しては私はハイボールしか飲まないので適当なのを挙げた。要は好きなジャンルにおける要石である。あなたはそれらを全て、自身の範疇に迎え入れられるだろうか。私にはとても無理だ。

ビートルズの呪縛

高校生のころ、私はハードコアパンクを愛聴していた。特に世間では流行っていなかったが、youtubeとallmusicをひたすら巡廻していれば、労せずして知識を蓄えることができる。バンザイ。インターネット。ハードコアパンクを入り口に色々なジャンルを聴いてみたりした。こうなると高校生特有の自意識熟成期間に陥ってしまいそうだが、田舎だったおかげか、ちょっと音楽に詳しい奴ぐらいに扱われ、変に拗らせることなく、高校3年間を謳歌できた。そんな風に健康的な音楽生活を過ごしてきたのだが、今日に至ってもビートルズが好きになれない。つまらない。 友人達には色々勧められた。リボルバー、サージェントなんちゃら、ホワイトアルバム……。一向に耳に入ってこない。しかし、相手への配慮、そして、音楽が好きならビートルズは当然、といった薄っぺらい見栄を張ってきた。「すごい。60年代とは思えない。」「感動した。」、バーゲンセール。心の底では何とも思ってない。嫌いですらない。つまらない。上司へのお世辞と何も変わりはない。私は10年近く、この不毛な返答を続けてきた。ビートルズは50年前の音楽で相応に色褪せて響く。

感動した。と嘘をつくと、狼少年を思い出す。自身が本当に心動かされる物に出会っても、頭がその感動を取り合ってくれないのではないのか。人間は、経験や行動によって形づくられる。感覚に嘘を吐く度、価値観は自身の基準から離れていくように思う。

ビートルズはつまらない。